バーチャル往診随行:起立不能の四変牛編 |
『分娩後28日の経産牛が突然起立困難になってしまった』と往診依頼がありました。繋ぎ牛舎の農家さんです。さぁ、往診に向かいましょう。
到着すると、右下伏臥で、自力では起立出来ない状態でした。左股関節を精査し脱臼は無い事を確認。吊起し起立させると左後肢を側方に伸長し内股の筋肉が硬結、呼吸は早く、左肋でピング音を聴取し第四胃変位にもなっていました。宗谷では第四胃変位の手術は手術室で行っていますが、この起臥状態では運搬出来ません。現地で手術を施したとしても運動器の状態が悪く、搾乳牛として活躍出来るか、現時点で見通しが立ちません。血液検査で病態把握に努め、牛の経過を見ながら治療を慎重に組み立てて行く必要性を感じました。カルシウム・マグネシウム・リン・血糖値は正常値。筋肉損傷の度合いはCK1278IU/L、AST157IU/Lとさほど高値ではありません。慢性炎症もありそうに見えたのでA/G比の検査を外注しました。
第2病日は依然起立不能。吊起し確認すると左肋のピングは消えていません。とても暑い日で、起立不能の牛は必要なタイミングで飲水しない事もあり呼吸の状態は悪化、かなり苦しそうです。
第3病日。A/G比の結果が朝診療所に届き、0.75。正常値ではありませんが予後不良となる値でもありません。往診すると朝、畜主が吊起し搾乳した後ずっと起立しており、左後肢の硬結部位もやや軟化、左後肢の負重は弱いものの側方に伸長する事なく真っ直ぐ肢をおろして着蹄、呼吸も落ち着き、顔つきも楽そうでした。しかし第四胃変位のガス(ピング音)は変わらず聴取し下痢便を排泄しています。私の見立てはこうです。『自力起立したり左後肢の筋肉損傷が癒えるまでにはかなりの日数を要するだろうけれど起立時間は延長してきており血液検査結果からも治癒の見込みはあり、2回の内科治療でガスが抜けないので手術は必要で、手術室への運搬を待たずに早く現地でしてしまった方が良い。乳量もあるのでその価値はある。一方で毎日の介護が必要なのでそれが可能かが予後を考える上で重要になってくる』畜主にはこんな風に聞いてみました。『四変のガスがずっと抜けないので手術が必要ですが運搬出来るような肢の状態じゃないです。肢の改善を待っていてはかなり日にちがかかっていまうし、四変のままだと体力も衰えるから、どうせやるなら早くにこの場でやってしまった方が良いです。ただ毎日吊る作業は続くだろうから、それが大変であれば手術はせずに違う予後を考えるのも手ですがどうしていきたいですか?』すると農家さんは『吊ってさえしまえばこうして立っていられて搾れるし、ここでしてくれるのなら手術をお願いしたい』とのことでした。普段仰臥での手術ばかりですので現地でもトラクターを利用して仰臥で手術をしています。しかしこの個体はトラクターを使える所まで歩行は出来ないし、昨日まで呼吸がかなり悪く今日も呼吸が少し早いので仰臥にするリスクがありそうです。立位で手術を実施しました。

術後は朝晩の痛み止めを続けてもらいました。
第7病日。往診すると、失敗する時はあるものの、尾を持って介助すると自力で起立出来るようになっていました。採食し、正常便を排泄しています。畜主と確認し合った治療のゴール『吊ってでも搾乳できる状態』は達成しました。もう少し痛み止めは続けますが、時間はかかっても左後肢の筋肉損傷がきちんと癒えて行くことを願っています。
目的は達成したのですが、立位の第四胃変位整復手術の経験値があまりに無さすぎて、第四胃を創口に持って来るのにかなり難儀しました。一人で出来る予定でしたがH獣医師に助けを求め、何とか終わりました。立位手術の経験豊富なN獣医師にどうすれば上手く行くのか聞いてみました。次回『コツを教えて!第四胃変位・立位手術編』です。
農家さん、毎日の看護と診療の立ち会い、いつもありがとうございます!

