バーチャル往診随行:子宮捻転-実践編 |
10月1日『分娩が始まっているが、産道に手を入れると手が捻れてしまう』と往診依頼がありました。さぁ、往診に向かいましょう。

授精月日を確認すると1月9日。月から3引いて日に10足し予定日を計算すると10月19日。判別(ホルスタインの雌が生まれる精液)を授精しているとのこと。予定日よりだいぶん早いので双子かな?産道に手を入れると皺襞はかなり硬く子宮捻転です。常に尾を挙上し、怒責も重度。双子の子宮捻転は整復が困難な事が多いですし、産道に入れた手には血液が付着、分娩は始まっているものの乳房は十分に腫脹しておらず正常な妊娠期間を全うしていない(死産、奇形)可能性が高そうです。不安要素の多い症例ですが整復を試みます。普段はブローサポートを入れながらまず産道上部を押しますが、今回は子宮外口がまだ1.5指幅しか開いていないのでほとんど入りません。では、押し込み保持法をやってみましょう。農家さんは獣医師が無事に治してくれるか、どのくらい時間がかかるのか、不安だろうと思います。また、この整復法にまだ馴染みがないですし獣医に動きもあまり無いので不安は深まるかもしれません。処置をしながら、前半にどの様な整復法かの説明をしています。『まず10分やってみますね』と処置しましたが改善の気配がありません。別の治療法を検討する必要がありそうです。処置の後半では母牛回転を想定して、どんなトラクターがあるか、場所はどうしようか、歩み板はあるか、話をします。処置開始から7分経過していますが進展が無いので、母体回転(コツを教えて!はじめに&子宮捻転編)をする事にしましょう。これで整復できなければ帝王切開です。しかし今回の症例は既に胎子が死亡している事が予想され、乳房も腫脹していません。この乳房の状態で死亡胎子を帝王切開で摘出しても、母牛がなかなか回復しないばかりか、乳もほとんど出ない可能性もあります。何とか経腟で分娩させて、少しでも乳房が張った状態にしたいです。その為には母体回転を絶対に成功させなければなりません。歩み板は無さそうでしたが『胎子を触れる子宮捻転だったら胎子の肢を掴んだ状態で母牛を回転させれば整復出来るのですが、今回は子宮の口がまだ閉じてるからそれができなくて、治らない、治らない、と何回も回転させる事になり母牛も衰弱してしまいます。歩み板があれば整復し易いんです』とお伝えしたところ、探して持ってきてくださいました。人手が必要なので、従業員さんも残ってくださっています。この後一緒に繁殖をたくさん診る予定のH獣医師も到着。どんどん心強くなっていきます。歩み板を使い母牛を回転させ、産道を確認すると・・・一回で綺麗に捻転整復されました!ただしまだ油断は禁物。伏臥や横臥だと捻転を正確に判断出来ない事もあり、起立させて確認すると捻れが残っている事もあります。せっかく治ったと思って肢のロープを解いて起立させた後、また振り出しに戻ってやり直すのは、がっかりしてしまって大変です。起立させる前に必ず『寝てると正確に判断出来ない時があるので起立させてからもう一度確認します』と伝えます。産道と、直腸検査、どちらも異常は無く、幸い子宮捻転は整復されました。
最後に腹の胎子をどうするのが最善か考えましょう。胎子が生きている確証があれば予定日まで待つ事もできます。しかし今回は胎子が死亡してる可能性が高いです。整復後の直腸検査では胎子は触れず、子宮はパンパンに膨れ上がり、中子宮動脈の拍動もかなり弱いです。死亡している事が確定的になりました。この状態で数日放置してしまうと胎子が腐敗して経腟分娩は困難になるでしょう。確実に分娩へと向かう様に分娩誘起の注射をしました。
翌日早朝、難産になってしまいましたが畜主介助のもと分娩。双子では無く1頭の死産でした。
2024年からやり始めた押し込み保持法は5連続成功、過大子を含む双子の死亡胎子が2連続敗退、その後2連続成功し、今回の症例でした。今のところ成功例は全て胎子が生きていました。死亡胎子も上手く整復出来るようになりたいのですが‥果たしてどうなりますでしょうか。
農家さん、診療立ち会いのご協力をありがとうございます。たくさんの人手があり心強かったです!

(猿払村)
